胃がんの治療法
胃がんの治療法はがんの深さや転移の程度によって決まります。
- :胃がんを顕微鏡で見たときの細胞の形や並び方による分類です。
- :大きな塊を形成するような高度なリンパ節転移のことです。
- :D1、D+、D2は、手術時に切除する胃周囲のリンパ節の範囲を示します。
「胃癌治療ガイドライン 医師用 2021年7月改訂【第6版】」(日本胃癌学会/編)、金原出版、2021より改変して転載
胃がんの切除方法
内視鏡的切除
内視鏡的切除とは、粘膜内にとどまっていると思われる胃がんに対して行われます。切除した粘膜中のがんの部分を調べた結果によっては、手術が必要になります。胃切除術と比べて合併症が少なく、後遺症もほとんどありません。入院期間は1週間程度で、退院直後からほぼ普通の生活が可能です。
手術
定型手術
原則として、がんを含め胃の2/3以上を切除し、リンパ節を周囲の脂肪組織とともに切除します。そして、食物の通り道をつくるために、残った胃と腸をつないで消化管の再建を行います。
縮小手術
定型手術に比べ、胃の切除部位や取り去るリンパ節を少なくする手術です。
拡大手術
胃切除に加え、がんが広がっている膵臓・脾臓・大腸などとリンパ節を広範囲に切除します。
病理学的ステージⅡA~ⅢCの場合には、再発予防のために、術後補助化学療法を行うことがあります。
手術の種類
胃全摘術
胃の全体を切除する手術です。
切除部
再建方法:ルーワイ法
幽門側(ゆうもんそく)胃切除術
幽門を含めて胃の2/3以上を切除する手術です。噴門は温存します。
切除部
再建方法:ビルロートⅠ法
再建方法:ルーワイ法
図は「研修医のための見える・わかる外科手術」(畑啓昭/編),羊土社,2015より改変して転載
幽門保存胃切除術
胃の中ほどを切除し、幽門と上部1/3は温存する手術です。
噴門側(ふんもんそく)胃切除術
噴門を含めて胃の上部を切除する手術です。幽門は温存します。
胃分節切除術
噴門と幽門を温存して胃を切除する手術のうち、幽門保存胃切除術に該当しない手術をいいます。
胃局所切除術
内視鏡などにより腫瘍とその周辺だけを局所的に切除する手術です。
バイパス手術
進行がんで胃切除による治療が難しいものの、がんによって食物の通り道が塞がれてしまっている場合に、別の通り道を作るために行われる手術です。
その他
手術後、温存した部分にがんが発生した場合に行う手術として残胃全摘術、残胃亜全摘術があります。
手術によるおもな合併症
胃がん手術の合併症には、手術と直接関係しておこる外科的合併症と、そうでない一般的合併症に分けられます。
外科的合併症
縫合不全(ほうごうふぜん)
胃や腸を縫い合わせたあとがほつれて胃液や腸液がおなかの中に出る状態のことです。
縫合不全の多くは、絶飲食で自然に治るまで観察しますが、重症の場合は再手術で体内にたまった液を出して治療を行います。
膵液瘻(すいえきろう)
膵臓の近くに手術操作が加わったときに、膵臓で作る膵液がおなかの中にもれてしまう状態のことです。
多くの場合は感染を起こし、発熱します。縫合不全と同様に再手術を行う場合があります。
腹腔内膿瘍(ふっくうないのうよう)
縫合不全や膵液瘻に伴って、おなかのなかに膿(うみ)がたまっている状態のことです。
再手術で体内にたまった液を出すために管(ドレーン)を入れ、治療を行います。
一般的合併症
肺炎
寝たままでいると肺の中に痰(たん)がたまりがちとなり、やがて肺が細菌に感染しやすくなります。
肺塞栓症(はいそくせんしょう)
長時間寝ている間にふくらはぎの静脈内に血のかたまりができ、これが流れ出して肺の血管をふさいでしまうことがあります。予防として足に弾性タイツをはいたりします。
肝機能障害
手術や使用した薬剤の影響で肝機能が悪くなることがあります。
手術によるおもな後遺症
胃の手術後は、胃切除により、胃の本来の役割が損なわれてさまざまな後遺症が起こることがあります。
切除した部分やその範囲によって症状も異なりますが、食べ方や食後のすごし方を工夫することで、症状が改善します。
腸閉塞(ちょうへいそく)
腸がおなかの中で癒着(ゆちゃく)し、腸の流れが閉ざされて便やガスが出なくなる
症状
- 激しい腹痛
- 吐き気・嘔吐
対策
ただちに病院に連絡しましょう。
逆流性食道炎(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)
腸へ流れていくはずの消化液が食道に逆流し、炎症を生じる
症状
胸焼け
対策
食後はすぐ横にならず、しばらく座っていましょう。
寝る前に肉などの脂っこいものや乳製品を食べないようにしましょう。
こみ上げてくる場合には、座り、口をすすいだり番茶などを飲みましょう。
ダンピング症候群(しょうこうぐん)
食物は、胃の中でかき混ぜられて少しずつ腸に送り出されていますが、胃を切除すると食物が一度に腸に流れ込むために不愉快な症状を生じることがあります。
早期(そうき)ダンピング症候群
食物が一度に腸に流れ込む
症状
- 食後30分以内
- 消化管の内圧(ないあつ)が高くなり起こる全身症状(冷や汗、脱力感、動悸、下痢、吐き気)
対策
食事は、よくかみ、ゆっくり食べましょう。
熱いものや冷たいものは刺激になるので控えましょう。
食後30分は横にならず、身体を起こしておきましょう。
後期(こうき)ダンピング症候群
食直後に血糖が上昇し、インスリンの分泌量が増加する
症状
- 食後2~3時間
- 低血糖症状(冷や汗、脱力感、めまい、ふるえ)
対策
食事はゆっくり食べましょう。タンパク質中心の食事にしましょう。
低血糖症状が起こる場合は、あめ玉、ビスケットなどを持参しましょう。
手術後の食生活について
手術で胃が小さくなったり、なくなったりすると、食欲がわかなくなると同時に、以前のように一度にたくさん食べることができなくなります。小さくなった(あるいはなくなった)胃の働きをおぎなうためには、上手な食べ方を身につける必要があります。
おいしく食べて、しっかり栄養をとるためにも、食べ方に気をつけ、食事を工夫しながら、あなたに合った食生活をさがしていきましょう。
食べ方のポイント
1.食事は少量ずつ回数を増やす
1日3食の他に、栄養補給として2~3回の間食をとることからはじめるとよいでしょう。
体調に合わせて徐々に食べ物の1回量を増やし、1回量が増えるようになったら回数を減らしていきましょう。
間食でとりやすい食品
乳製品 | ヨーグルト、牛乳、乳酸飲料、チーズなど |
---|---|
果物 | バナナ、りんご、ジュース、缶詰など |
パン | バターロール、クリームパン、ソフトパン、ホットケーキなど |
菓子 | ビスケット、ウエハース、卵ボーロ、プリン、カステラなど |
2.食事の工夫、楽しく食べる
食事の献立は健康な人と変わりません。
食品、味付けに注意しながら、食欲のわく献立や盛りつけを工夫しましょう。
食事の見た目やおいしそうなにおいはだ液の分泌を促します。
楽しい雰囲気で食べることも食事の大切なポイントです。
3.消化のよいものをよくかみ、ゆっくり食べる
よくかんで食べることで、だ液と食物がよく混ざり胃腸の負担が軽減されます。
ゆっくり食べることで、食物を少しずつ腸に送りだすことができます。
4.食事内容は段階的にすすめる
食物繊維、揚げ物、脂肪の多い食物は消化の負担になりますので、手術後早期は控えめにしましょう。
食事に慣れてきたら、体調に合わせ、少しずつ増やすこともできます。
5.食事時間を規則的にする
時間を守って食べることにより、食べ物を受け入れる態勢ができます。便通も安定します。
こんなことに注意しましょう
栄養バランスのよい食事を心がけましょう
1つの食品にかたよらず、主食、主菜、副菜をそろえて食べましょう。
- 主食:米飯、パン、めん類など
- 主菜:魚、肉、卵、豆腐、乳製品など
- 副菜:野菜、果物など
食品については「食品のえらび方」をご参照ください。
食べ過ぎないように注意しましょう
体調がよいからと安心して一度に多く食べるのは禁物です。
刺激の強いものは避けましょう
強い香辛料の使用は避け、濃い味付けも刺激になるので控えましょう。
食間は水分摂取を心がけましょう
胃が小さくなっているので、水分は、食事と食事の合間にこまめにとりましょう。
衛生に注意しましょう
手術後はからだの抵抗力が低下しており、また、胃酸(殺菌作用があります)の分泌が少なくなっていますので、手洗いや食品の鮮度などには注意しましょう。
食生活のすすめ方
- 手術後は食事量が少量になってしまいますが、3ヵ月くらいからは食欲がでて、食べられる量も増えてきます。
ご自分の体調に合わせて、徐々に食事量を増やしましょう。 - 体重は栄養状態の目安になります。手術後は体重が減る傾向にありますが、食事量が増えるに従い、安定してきます。
1週間に1回以上の体重測定をおすすめします。 - 食事量が増えてきたら、色々な食品を組み合わせて食べましょう。
また、適度な運動により、筋肉をつけ、体力を回復することも大切です。
食品のえらび方
おすすめの食品 | 種類 | 注意する食品 |
---|---|---|
粥、軟飯、うどん、パン、マカロニなど | 主食 |
|
鶏卵、うずら卵など | 卵 | - |
牛乳、ヨーグルト、乳酸飲料、チーズなど | 乳製品 | - |
皮なし鶏肉、ささみ、脂肪の少ない牛・豚肉、レバーなど | 肉類 | 脂肪の多い肉(バラ肉、ハム、ベーコンなど) |
鮭、白身魚、かき、はんぺん、水煮缶など | 魚介類 | 貝類、いか、たこ、すじこ、かまぼこ、干物、佃煮、塩辛など |
豆腐、やわらかい煮豆、ひきわり納豆、きなこなど | 豆製品 | 炒り豆、枝豆、かたい煮豆など |
植物油、バター、マーガリン、生クリームなど | 油脂類 |
|
水溶性食物繊維の多い野菜(白菜、キャベツ、ほうれん草、人参、かぶ、大根、たまねぎなど) | 野菜類 |
|
じゃがいも、さといも、長いも、大和いもなど | いも類 | 繊維の多いさつまいも、こんにゃく、しらたきなど |
果物缶詰、りんご、熟したバナナ、桃、洋梨など | 果物 | 繊維が多く酸味の強い果物(パイナップル、柑橘(かんきつ)類など)、干し果物など |
ビスケット、カステラ、ウエハース、プリン、ゼリーなど | 菓子類 | 揚げ菓子、辛いせんべい、豆菓子など |
番茶、麦茶、ジュース、薄いお茶、薄い紅茶、薄いコーヒーなど | 飲み物 | 炭酸飲料、アルコール、濃いお茶、濃いコーヒーなど |
- | 海藻類 | こんぶ、のり、ひじき、わかめなど |
- | 調味料 | 辛子、カレー粉、わさびなどの香辛料 |
調理のワンポイントアドバイス
煮る、蒸す、焼く、細かく切るなどの調理法で消化しやすい料理にしましょう。
煮る・蒸す・焼く
煮たり、蒸したり、焼いたりすることで、食品の消化に役立ちます。
(おじや、煮込みうどん、煮魚、蒸し魚、焼き魚、シチュー、グラタン、肉団子煮、湯豆腐、茶わんむし、温泉卵、オムレツなど)
切る
細かくきざんだり、繊維を切るように下処理し、クリーム煮、やわらか煮、あんかけ、煮浸しなどの料理にするとよいでしょう。