膵癌**治癒切除不能な膵癌
適正使用に関するお願い
アブラキサン(本剤)は、人血清アルブミンにパクリタキセルを結合させた製剤です。
投与方法、適応症、薬物動態、副作用発現頻度等が他のパクリタキセル製剤*と異なりますので、投与に際しては、十分ご留意ください。
*「他のパクリタキセル製剤」とは添加物としてポリオキシエチレンヒマシ油及び無水エタノールを使用しているパクリタキセル製剤のことを指します。
「適正使用ガイド」では、治癒切除不能な膵癌に対する本剤の治療を安全かつ適正に行っていただくために、症例選択、投与方法、治療開始前~治療期間中の注意事項、副作用とその対策、患者さんへの説明、調製方法等について解説しています。
本剤の投与に際しては、最新の添付文書及び適正使用ガイドをご参照の上、適正使用をお願い致します。
投与に際しては、以下の項目について十分ご留意ください。
効能又は効果
効能又は効果に関連する注意(抜粋)
- 〈効能共通〉
- 本剤の手術の補助化学療法における有効性及び安全性は確立していない。
- 〈治癒切除不能な膵癌〉
- 治癒切除不能な膵癌においては、患者の病期、全身状態等について、「臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。
用法及び用量(抜粋)
治癒切除不能な膵癌にはC法を使用する。
- C法:
- ゲムシタビンとの併用において、通常、成人にはパクリタキセルとして、1日1回125mg/m2(体表面積)を30分かけて点滴静注し、少なくとも6日間休薬する。週1回投与を3週間連続し、4週目は休薬する。これを1コースとして、投与を繰り返す。
なお、患者の状態により適宜減量する。
用法及び用量に関連する注意(抜粋)
- ① 本剤の投与にあたっては下記に留意し、必要に応じ休薬、減量を実施すること。
- ・C法
- 〈第1日目(各コース開始時)〉
好中球数及び血小板数の変動に十分留意し、投与前の臨床検査で好中球数が1,500/mm3未満又は血小板数が100,000/mm3未満であれば、骨髄機能が回復するまで投与を延期すること。
〈第8及び15日目〉 第8日目 投与前血液検査(/mm3) 対応 ① 好中球数1,000超 かつ
血小板数75,000以上投与量変更なし ② 好中球数500以上1,000以下 又は
血小板数50,000以上75,000未満1段階減量 ③ 好中球数500未満 又は
血小板数50,000未満休薬 第15日目 投与前血液検査(/mm3) 第8日目での血液検査の結果 対応 好中球数1,000超
かつ
血小板数75,000以上①の場合 投与量変更なし ②の場合 第1日目投与量に増量可 ③の場合 1段階減量 好中球数500以上1,000以下
又は
血小板数50,000以上75,000未満①の場合 投与量変更なし ②の場合 第8日目投与量に同じ ③の場合 1段階減量 好中球数500未満
又は
血小板数50,000未満①~③の場合 休薬 投与後、好中球数が7日間以上にわたって500/mm3未満となった場合、血小板数が50,000/mm3未満となった場合、又は発熱性好中球減少症が発現した場合には、次回の投与量を減量すること。
また、高度(Grade 3)な末梢神経障害が発現した場合には、軽快又は回復(Grade 1以下)するまで投与を延期し、次回の投与量を減量すること。
- ・減量の目安
-
減量段階 C法 通常投与量 125mg/m2 1段階減量 100mg/m2 2段階減量 75mg/m2
治癒切除不能な膵癌で注意を要する副作用
- 末梢神経障害
- 発現頻度の高い副作用です。投与中止・延期又は休薬することがあり、次回以降の減量を必要とすることがあります。
- 骨髄抑制
- 骨髄抑制は用量制限毒性(DLT)です。
投与中止・延期又は休薬することがあり、次回以降の減量を必要とすることがあります。
骨髄抑制の持続により発熱性好中球減少症等の感染症の併発が報告されています。
- 感染症
- 好中球減少の有無にかかわらず、敗血症等の感染症があらわれ、死亡に至る症例が報告されています。
- 脳神経麻痺
- 顔面神経麻痺、声帯麻痺等の脳神経麻痺が報告されています。
- 間質性肺疾患
- 間質性肺炎、肺臓炎、びまん性肺胞障害等が報告されています。
初期症状として発熱、咳嗽、息切れ、呼吸困難等があらわれています。
- 黄斑浮腫
- 視力低下等の患者の訴えを主治医が眼科医に相談し、黄斑浮腫が確認されました。
処置が遅れると、視力障害が長期に持続する可能性があります。
投与時
- インラインフィルターは使用しないでください。
- 他の薬剤等との配合又は同じ静注ラインでの同時注入はしないでください。
重要な基本的注意
本剤は添加物としてヒト血液由来成分(人血清アルブミン)を使用しているため、特定生物由来製品に該当します。
参考アブラキサン治療開始前~治療期間中の注意事項(C法:毎週投与法)
C法(毎週投与法)
症例の選択基準の目安
- 治療開始前には必ず臨床検査を実施し、可能な限り、【適正使用基準】を満たしていることを確認してください。
- 【適正使用基準】に該当しない場合には回復するまで投与の延期を考慮してください。
- 全身状態低下例、2次治療以降の患者、又は高齢者では特に治療の可否をご検討ください。
やむを得ず投与を必要とする場合には、頻回の臨床検査を実施するとともに、患者の状態(PS、栄養状態等)を十分観察しながら、適宜減量する等慎重に投与してください。- (1)生理機能(骨髄、心、肺、肝、腎等)が十分保持されている症例
- (2)感染症又はその疑い(CRP異常、発熱、白血球異常増多)のない症例
項目 | 適正使用基準*1 | |
---|---|---|
ECOG Performance Status(PS) | PS 0~1 | |
骨髄機能 | 白血球数(/mm3) | ≦12,000 |
好中球数(/mm3) | ≧1,500 | |
血小板数(/mm3) | ≧100,000 | |
ヘモグロビン値(g/dL) | ≧9.0 | |
肝機能 | AST(GOT)、ALT(GPT) | ≦ULN*2×2.5倍*3 |
総ビリルビン値(mg/dL) | ≦ULN*2×1.25倍 | |
腎機能 | クレアチニン値(mg/dL) | ≦1.5 |
心機能 | 心電図 | 臨床上問題となる異常所見なし |
神経障害 | 末梢神経障害 | ≦Grade 1*4 |
- *1 承認時評価対象試験(C法:国内第Ⅰ/Ⅱ相試験)1)における投与患者の選択基準を参考に設定
- *2 ULN;(施設)基準値上限
- *3 原疾患に起因又は肝転移を有する場合は、各施設基準値上限の5倍まで許容する。
- *4 症状がない;深部腱反射の低下又は知覚異常(CTCAE v4.0-JCOG)
- 1)切除不能進行・再発膵癌患者を対象としたABI-007+Gemcitabine(GEM)療法の第Ⅰ/Ⅱ相試験, 社内資料: 承認時評価資料
治療期間中の注意
●コース内投与時(Day 8、15)の注意
①Day 8:【コース内投与基準】に該当しない場合
本剤の投与をスキップし、回復・軽快したことを確認してDay 15以降に投与を行ってください。
②Day 15:【コース内投与基準】に該当しない場合
本剤の投与をスキップし、回復・軽快したことを確認し、Day 22以降に次コースのDay 1として投与を行ってください。
コース内投与基準
投与前日又は当日に【コース内投与基準】をすべて満たすことを確認して投与を開始してください。満たさない場合、Day 8又はDay 15の投与をスキップします。投与量は【減量基準】と【コース内投与量調整基準(Day 8、15)】を確認して決定してください。
項目 | コース内投与基準 |
---|---|
好中球数(/mm3) | >1,000 *1 |
血小板数(/mm3) | ≧50,000 |
発熱性好中球減少症 | 認めない |
口腔粘膜炎 下痢 |
≦Grade 2 又は 前コースで≧Grade 3が発現した場合:≦Grade 1に回復後 |
末梢神経障害*2 |
- *1 添付文書では、Day 8、15において好中球数500/mm3~1,000/mm3で投与可能となっています
好中球数500/mm3~1,000/mm3で投与する場合は減量を考慮し、慎重に投与してください - *2 アブラキサン投与の際に確認する項目です
- 注)上記以外の事象が発現し、医師が必要と判断した場合は投与をスキップしてください。
減量基準
前回投与後、【減量基準】に該当する有害事象が認められた場合は、【コース内投与基準】、又は【次コース開始基準】に回復していることを確認し、<減量の目安:C法>を参考に投与量を減量します。一度、【減量基準】に該当し、投与量を減量した場合、投与量を戻すことはできません。
項目 | 減量基準 | 次回投与時 |
---|---|---|
好中球数(/mm3) | <500が7日以上継続 | 1段階減量 |
血小板数(/mm3) | <50,000 | 1段階減量 |
発熱性好中球減少症 | 発現(≧Grade 3) | 1段階減量 |
末梢神経障害 | ≧Grade 3*3 | アブラキサンのみ1段階減量 |
皮疹 | Grade 2/3*4 | 1段階減量 |
口腔粘膜炎 下痢 |
≧Grade 3 | 1段階減量 |
- *3 ≦Grade 2でも減量や、投与延期(又はスキップ)を考慮してください
(乳癌の使用成績調査2)では、減量や処置等により回復・軽快した症例が認められています) - *4 皮疹はGrade 2、3でもアブラキサン、ゲムシタビンの投与量を減量して投与可
- 2)アブラキサン点滴静注用100mg使用成績調査, 社内資料, 2014年
- 注)上記以外の事象が発現し、医師が必要と判断した場合は、投与量を減量してください。
コース内投与量調整基準(Day 8、15)
【コース内投与量調整基準(Day 8、15)】を確認し、基準に応じてDay 8あるいはDay 15 の投与量を調整して投与します。一度、投与量を調整した場合でも、次コース開始時に【減量基準】に該当せず、【次コース開始基準】を満たす場合は投与量を調整前投与量に戻すことができます。
コース内投与量調整基準(Day 8) | ||
---|---|---|
投与前血液検査 | 投与量調整 | |
① | 好中球数 >1,000/mm3 かつ 血小板数 ≧75,000/mm3 |
投与量変更なし |
② | 好中球数 >1,000/mm3 *5 かつ 血小板数 ≧50,000/mm3、<75,000/mm3 |
1段階下げて投与 |
③ | 好中球数 ≧500/mm3、≦1,000/mm3 かつ 血小板数 ≧50,000/mm3 |
投与スキップ |
④ | 好中球数 <500/mm3 又は 血小板数 <50,000/mm3 |
- *5 添付文書では、Day 8、15において好中球数500/mm3~1,000/mm3で投与可能となっています
好中球数500/mm3~1,000/mm3で投与する場合は投与量の調整を考慮し、慎重に投与してください
コース内投与量調整基準(Day 15) | ||
---|---|---|
投与前血液検査 | Day 8の血液検査の結果 | 投与量調整 |
好中球数 >1,000/mm3 かつ 血小板数 ≧75,000/mm3 |
①投与量変更なし | 投与量変更なし |
②1段階下げて投与 | 調整前投与量に戻して投与可 | |
③投与スキップ | 投与量変更なし | |
④投与スキップ | 1段階下げて投与 | |
好中球数 >1,000/mm3 *5 かつ 血小板数 ≧50,000/mm3、<75,000/mm3 |
①投与量変更なし | 投与量変更なし |
②1段階下げて投与 | Day 8の投与量を維持して投与 | |
③④投与スキップ | 1段階下げて投与 | |
好中球数 ≦1,000/mm3 *5 又は 血小板数 <50,000/mm3 |
①~④の場合 | 投与スキップ |
- ✓Day 8又はDay 15に同時に【減量基準】と【コース内投与量調整基準(Day 8、15)】の両方に該当した場合は、アブラキサン、ゲムシタビンの投与量を減量し、有害事象が回復しても投与量を減量前に戻しません。
- ✓Day 8で一度、【減量基準】に該当し投与量を減量した後に、同一コースにて【コース内投与量調整基準(Day 8、15)】に該当する場合は、更なる減量は必須ではありません。
次コース開始基準
各コースの開始前日又は当日に【次コース開始基準】をすべて満たすことを確認して投与を開始してください。満たさない場合はDay 1投与を延期し、回復したことを確認してコースを開始してください。投与量は【減量基準】を確認して決定してください。
項目 | 次コース開始基準 |
---|---|
好中球数(/mm3) | ≧1,500 |
血小板数(/mm3) | ≧100,000 |
AST(GOT)、ALT(GPT) | ≦ULN*6 ×2.5倍*7 |
発熱性好中球減少症 | 認めない |
口腔粘膜炎 下痢 |
≦Grade 2 又は 前コースで≧Grade 3が発現した場合:≦Grade 1に回復後 |
末梢神経障害*8 |
- *6 ULN:(施設)基準値上限
- *7 原疾患に起因又は肝転移を有する場合は、各施設基準値上限の5倍まで許容する
- *8 アブラキサン投与の際に確認する項目です
- 注)上記以外の事象が発現し、医師が必要と判断した場合は投与を延期してください。
〈減量の目安:C法〉
減量段階 | アブラキサン | ゲムシタビン |
---|---|---|
通常投与量 | 125mg/m2 | 1,000mg/m2 |
1段階減量 | 100mg/m2 | 800mg/m2 |
2段階減量 | 75mg/m2 | 600mg/m2 |
- 承認時評価対象試験(C法:国内第Ⅰ/Ⅱ相試験)1,3,4)を参考に作成
- 1)切除不能進行・再発膵癌患者を対象としたABI-007+Gemcitabine(GEM)療法の第Ⅰ/Ⅱ相試験, 社内資料: 承認時評価資料
- 3)切除不能進行・再発膵癌患者を対象としたABI-007 + Gemcitabine(GEM)療法の第Ⅰ/Ⅱ相試験(一年時解析データ),社内資料
- 4)Ueno, H. et al.: Cancer Chemother Pharmacol., 2016, 77(3), 595-603
副作用等による体重減少がある場合には、本剤の投与量の見直しを図ってください。
副作用の発現状況、その程度により投与量の減量を検討してください。