検査から診断までの流れ
膵がんの診断は、まず腹痛や黄疸、体重減少、糖尿病の病歴、背部痛などの状況を確認します。
膵がんが疑われる場合には血液検査で膵酵素や腫瘍マーカーを調べたり、US検査(腹部超音波検査)を行い、さらに、がんの進み具合や広がりを調べるために、造影剤を用いたCTやMRIなどの画像検査や内視鏡などの検査を行います。
また、可能な限り、内視鏡下などで膵液や病変組織を採取し、顕微鏡にてがん細胞を確認します(病理診断)。
このように、膵がんの診断は総合的に判断し、がんの種類と病期を確定します。
検査の流れ
- 危険因子:膵がんになりやすい危険な因子のことです(糖尿病、慢性膵炎、肥満、喫煙など)。
- 「膵癌診療ガイドライン2019年版」では、EUSを実施する場合は、EUS検査に十分に慣れている施設で行うことが勧められています。
- 必要に応じて造影CT、造影MRI、EUS、PET、審査腹腔鏡が行われます。
日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編:
「膵癌診療ガイドライン2019年版」(金原出版、2019)より許諾を得て改変して転載
膵がんのおもな検査
血液検査
膵臓および胆道・肝臓のはたらきにかかわる酵素の数値や血糖値などを調べ、また、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9など)※の異常も確認します。
- CEA(癌胎児性抗原(がんたいじせいこうげん)、carcinoembryonic antigen)
CA19-9(carbohydrate antigen 19-9)
US検査(腹部超音波検査(ふくぶちょうおんぱけんさ))
超音波を利用して膵臓の状態を観察します。副作用の心配のない手軽な検査です。
CT検査(コンピュータ断層撮影(だんそうさつえい))
X線(レントゲン)を用いて体の中を連続撮影し、コンピュータで身体断面の画像からがんの状態、周辺の臓器への広がり、転移の有無を調べます。通常は造影剤※を使い撮影します。
- 造影剤:CTやMRIなどの画像検査の際に、通常の撮影では見えにくい部分を見やすくするために注射や内服で使用することがある薬剤です。いくつかの種類がありますが、体質によっては強いアレルギー反応が起こることがあるため注意も必要です。
MRI検査(磁気共鳴撮影(じききょうめいさつえい))
強い磁力を利用してCTと同じように連続撮影する検査です。
MRCP検査(磁気共鳴胆管膵管撮影(じききょうめいたんかんすいかんさつえい))
MRIを使い胆管や膵管の状態を調べる検査です。造影剤や内視鏡を使わないので、患者さんに負担が少ない検査です。
EUS検査(超音波内視鏡検査(ちょうおんぱないしきょうけんさ))
超音波装置のついた内視鏡を口から入れて、胃や十二指腸から膵臓などに超音波をあててがんの状態を調べる検査です。通常の超音波検査より詳しく調べられます。
ERCP検査(内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ないしきょうてきぎゃくこうせいたんかんすいかんぞうえい))
内視鏡を口から十二指腸まで送り込み、その中にカテーテルを入れて膵管と胆管の出口(十二指腸乳頭部といいます)まで通し、造影剤を注入し、膵管や胆管の形をX線撮影で調べる検査です。また、膵管のみにカテーテルを入れて調べる方法をERP検査(内視鏡的逆行性膵管造影(ないしきょうてきぎゃくこうせいすいかんぞうえい))といいます。これら検査を使って、膵管内の膵液や組織を採取し、がん細胞の有無を調べる場合もあります。
細胞診/組織診
膵がんに対する病理検査です。
ERP、EUS、US、CT検査時に膵液や病変部の組織を採取します。
採取した細胞や組織を顕微鏡で観察し、がんかどうか、細胞の性質を詳しく調べる検査です。
PET検査(陽電子放射断層撮影(ようでんしほうしゃだんそうさつえい))
がん細胞はブドウ糖をたくさん消費します。
ブドウ糖に近い成分を体の中に注射し、しばらくしてから全身をPETで撮影します。ブドウ糖が多く集まるところがわかり、がんを発見できます。
審査腹腔鏡検査(しんさふくくうきょうけんさ)
全身麻酔をした状態でお腹に小さな穴を開け、そこから腹腔鏡とよばれる内視鏡を入れて、がんがお腹のなかに広がっていないか調べる検査です。
膵がんの病期(ステージ)
がんの進み具合は病期(ステージ)であらわされます。病期はがんの浸潤(広がり)やリンパ節転移の程度、肝臓や肺など膵臓以外の臓器への転移、腹膜への転移などにより、Ⅰ~Ⅳの4段階に分かれています。
病期には日本の分類と国際的な分類が使われています。
どちらもⅠ~Ⅳ期に分類されていますが、内容は多少異なっています。
膵がんの病期(膵癌取扱い規約より)
日本の分類
がんの広がり/リンパ節転移 | 領域リンパ節に転移がない | 領域リンパ節に1~3個の転移がある | 領域リンパ節に4個以上の転移がある | 膵臓以外の臓器や、領域リンパ節より遠くのリンパ節に転移がある |
---|---|---|---|---|
がんの大きさが2cm以下で膵臓内にとどまっている | ⅠA | ⅡB | ⅡB | Ⅳ |
がんの大きさが2cmを超え膵臓内にとどまっている | ⅠB | ⅡB | ⅡB | Ⅳ |
がんが膵臓の外に出ている | ⅡA | ⅡB | ⅡB | Ⅳ |
がんが腹腔(ふくくう)動脈、または上腸間膜(じょうちょうかんまく)動脈まで広がっている | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅳ |
0期:非浸潤がん
日本膵臓学会編:「膵癌取扱い規約(第7版)」(金原出版、2016)を参考に作成
- リンパ節転移:リンパ液とは、血管や細胞から出た老廃物などを含んだ液体のことで、リンパ管という管を通って全身を巡っています。リンパ管の途中にはリンパ節と呼ばれる塊が存在し、通過するリンパ液を濾過する関所のような役割を担っています。リンパ節は全身に数多く存在し、それぞれに名前(番号)が付けられています。がんがこのリンパ管を通って、全身のリンパ節に広がることをリンパ節転移といいます。
- 領域リンパ節、所属リンパ節:どちらも、最初に発生したがん(原発巣(げんぱつそう))の近くに存在するリンパ節のことです。
膵がんの病期(UICC分類)
国際的な分類
がんの広がり/リンパ節転移 | 所属リンパ節に転移がない | 所属リンパ節に1~3個の転移がある | 所属リンパ節に4個以上の転移がある | 遠隔転移がある |
---|---|---|---|---|
がんの大きさが2cm以下 | ⅠA | ⅡB | Ⅲ | Ⅳ |
がんの大きさが2cmを超え4cm以下 | ⅠB | ⅡB | Ⅲ | Ⅳ |
がんの大きさが4cmを超える | ⅡA | ⅡB | Ⅲ | Ⅳ |
がんが腹腔動脈または上腸間膜動脈または総肝動脈まで広がっている | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅳ |
0期:上皮内がん
「TNM Classification of MALIGNANT TUMOURS Eighth Edition」( WILEY Blackwell、2017)を参考に作成
膵がんの臨床病期と治療
膵がんの治療には「外科的治療法(手術)」、「放射線療法」、「化学療法(抗がん剤)」などがあります。
治療方針はがんの進み具合と全身状態、患者さんの希望をふまえて決められます。
- がんが膵管内にとどまっている場合は、がん細胞を残さずに取りきることができると考えられ(切除可能)、手術が行われます。
- がんが膵管の外に出ても、まだ2cm以下で膵臓内にとどまっている場合は、切除可能として手術が行われます。手術後には、主に抗がん剤による補助療法が行われます。なお、手術の前に抗がん剤による化学療法を行う場合もあります。
- がんが広がりはじめ、手術でもがんが残ってしまう可能性が高い場合(切除可能境界)、まず抗がん剤による化学療法や、抗がん剤と放射線を組み合わせた化学放射線療法などの補助療法を行ってから手術を行うかどうか検討します。
- がんが膵臓の近くの大事な血管や神経にまで広がっている場合(局所進行)は、手術はせず化学放射線療法や、抗がん剤を使った化学療法が行われます。
- 膵臓から離れた場所までがんが広がり(遠隔転移あり)、手術ができない人には化学療法が行われます。
これらにQOL(生活の質)を改善するためにステント療法やバイパス手術、放射線療法、支持・緩和療法を組み合わせる場合もあります。また、診断時に切除不能とされた患者さんや、すでに手術を行っている患者さんでも、治療経過によっては手術を行う場合があります。
膵がんの臨床病期と治療
ステージ分類は、日本膵臓学会「膵癌取扱い規約(第7版)」による。
- 膵がんの患者さんには診断初期から痛み・消化吸収障害・(膵性)糖尿病・不安などに対する支持・緩和療法が必要です。
- 補助療法とは、抗がん剤による化学療法、もしくは抗がん剤と放射線療法を組み合わせた化学放射線療法のことです。
- 手術後の補助療法としては、主に抗がん剤による化学療法が行われます。
- ステント療法、バイパス療法、放射線療法、支持・緩和療法、外科的治療法は、患者さんの病状に応じて実施の有無が検討されます。
日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編:
「膵癌診療ガイドライン2019年版」(金原出版、2019)より許諾を得て改変して転載
膵がんの治療
外科的治療法(手術)
がんを含め膵臓と周囲のリンパ節などを切除する方法です。
膵がんの手術はがんの存在する場所によって膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術、膵全摘術などが行われます。
がんを切除することができない場合でも、十二指腸がふさがって食事がとれなくなるのを防ぐために胃と小腸をつなぐバイパス手術や、黄疸予防のために胆管と小腸をつなぐバイパス手術(胆道バイパス術)を行う場合があります。
化学放射線療法
放射線療法は放射線を患部に照射してがん細胞を攻撃する治療法です。通常は放射線療法のみで治療することはなく、抗がん剤と組み合わせて治療を行います。これを「化学放射線療法」といいます。
通常は体の外から照射する「体外照射」を行いますが、手術中に照射する「術中照射」を行うこともあります。
化学療法
抗がん剤を使ってがん細胞を攻撃し、がんの増殖を抑え疼痛などの症状をやわらげるために行われる治療法です。手術で取りきれないがんまたは再発した場合に、この治療が行われます。
膵がんの標準治療として、注射剤の組み合わせであるFOLFIRINOX療法(オキサリプラチン、イリノテカン塩酸塩水和物、フルオロウラシル、レボホリナートカルシウム)、ゲムシタビンとナブパクリタキセルとの併用、ゲムシタビン、経口剤のティーエスワン、ゲムシタビンと経口剤のエルロチニブとの併用(※遠隔転移時)、があります。患者さんの病期や全身状態、副作用などを総合的に考え、いずれかの治療を選びます。
黄疸の治療
黄疸を認める場合には、胆汁が流れるようにドレナージ術を行うことがあります。
- 内視鏡的逆行性胆管ドレナージ術(ERBD):
内視鏡を使って、十二指腸にある胆管の出口から胆管内にステントと呼ばれる管を入れ、胆汁を流れやすくする方法です。 - 経皮経肝胆道ドレナージ術(PTBD):
超音波で観察しながら、皮膚の表面から肝臓内の胆管に針を刺し、ここからチューブを胆管まで入れ、溜まった胆汁を体の外に流し出す方法です。
支持・緩和療法
- 痛みの管理
がんによる痛みの程度に応じて、鎮痛剤や麻薬性鎮痛剤(モルヒネなど)を適宜使用し、がんの痛みをコントロールします。なお、鎮痛剤により、便秘が起きやすくなることがあり、このため便通調節も必要となります。 - 精神的サポート
抑うつ症状や不安、社会との関係性の変化による苦痛など、がん治療に伴うさまざまな精神的苦痛を和らげるために、近年、複数の専門家で構成された緩和ケアチームが、患者さんとそのご家族を複合的にサポートしていく動きが広がりつつあります。 - アドバンス・ケア・プランニング(ACP;人生会議※1)
ACPとは、医療・ケアチーム等と一緒に「自らが希望する医療・ケアを受けるために、大切にしていることや望んでいること、どこで、どのような医療・ケアを望むかを自分自身で前もって考え、周囲の信頼する人たちと話し合い、共有すること」1)です。日本ではまだ新しい概念ですが、今後の普及が望まれています。
- 厚生労働省HP:自らが望む人生の最終段階における医療・ケアhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisyu_iryou/index.html