治療について

治療の目標

この治療は、殺細胞性抗がん剤と呼ばれる従来型の抗がん剤であるアブラキサンと、免疫チェックポイント阻害薬の1つであるアテゾリズマブを組み合わせた新しい治療法です。
がんの進行を抑えて日常生活を継続することが治療の目標です。

アブラキサンとアテゾリズマブの効果のしくみや特徴については、治療に使われるのはどんな薬?をご覧ください。

対象となる方

手術の適応にならない、または再発した乳がんで、トリプルネガティブかつPD-L1陽性のがんの方が対象です。

トリプルネガティブ乳がんとは?

乳がんは、がん細胞に発現している受容体やタンパクの種類によって、いくつかの種類(サブタイプといいます)に分けられます(表「乳がんのサブタイプ」参照)。
トリプルネガティブ乳がんとは、がん細胞にホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)とHER2タンパクがいずれも発現していない乳がんのことをいいます。

PD-L1とは?

PD-L1 ピーディーエルワン は、がん細胞や免疫細胞の表面にあるタンパクで、がんが患者さん自身の免疫から身を守る働きをしていると考えられています。アテゾリズマブは、このPD-L1に結合することで、効果を発揮します。トリプルネガティブ乳がんの患者さんを対象とした臨床試験によって、アブラキサンとアテゾリズマブの併用療法は、免疫細胞の表面にPD-L1が出ている方(PD-L1陽性)に対して、アブラキサンにアテゾリズマブを併用する効果が期待できることがわかっています。そのため、治療を始める前に、PD-L1が出ているかを調べる検査を行います。

<乳がんのサブタイプ>

乳がんのサブタイプ

アブラキサンとアテゾリズマブの併用療法を受ける前に

  • からだの状態によっては、アブラキサンとアテゾリズマブの併用療法を注意して行う必要がある場合や、この治療が受けられない場合があります。以下の項目に該当する方は、治療を始める前に必ず担当の医師や看護師、薬剤師にお伝えください。
  • 薬に対してアレルギーが出たことのある方
  • がんの治療で重い副作用が出たことのある方
  • 膠原病などの自己免疫疾患にかかったことのある方
  • この治療は患者さんの免疫にはたらきかけるため、自己免疫疾患に影響を及ぼす可能性があります。自己免疫疾患とは、本来自己を攻撃しないはずの免疫機能が、自分自身のからだや組織を攻撃してしまうことで生じる病気です。膠原病(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎など)、クローン病、潰瘍性大腸炎、バセドウ病、橋本病、1型糖尿病などがあります。
  • 間質性肺疾患にかかったことのある方
  • この治療では、まれに間質性肺疾患が起こることがあります。間質性肺疾患とは、肺の間質という部分に炎症が起こり、肺の機能が低下する病気です。
  • 感染症にかかっている方
  • 抗がん剤治療によって細菌やウイルス、真菌などに感染しやすくなったり、もともとあった感染が重症化する可能性もあります。慢性の感染症(虫歯、痔ろう、ウイルス性肝炎など)がある方は担当の医師にお伝えください。
  • 妊娠中、妊娠している可能性がある方
  • 胎児への影響や流産が起こる可能性があります。治療中は避妊が必要となります。万一治療中に妊娠がわかった場合は、必ず担当の医師や看護師、薬剤師にお伝えください。ワンポイントアドバイス「日常生活について」もあわせてお読みください。
  • アブラキサンとアテゾリズマブの併用療法を受けているときにほかの薬を使うと、効果に影響を及ぼしたり、思わぬ副作用があらわれることがあります。下記の項目を確認して「ある」に該当する方は、担当の医師や看護師、薬剤師に相談しましょう。
治療を受ける前に

投与方法

  • 投与方法
    静脈から点滴します。アブラキサンの点滴時間は30分です。アテゾリズマブの1回目の点滴時間は60分、2回目以降は30分です。
  • 投与量
    アブラキサンは身長、体重から体表面積を計算し、投与量が決められます。アテゾリズマブの1回あたりの投与量は840mgです。
  • アテゾリズマブの1回目の点滴は、60分かけて行います。その際、特に副作用がみられなければ、2回目以降は30分に短縮することが可能です。

治療スケジュール

  • 通常4週間(28日間)がひと区切り(1コース)となっています。1日目、8日目、15日目に点滴を行い、16~28日目はお休みします。
  • アブラキサンは1日目、8日目、15日目に点滴を行います。
  • アテゾリズマブは1日目と15日目、2週間ごとに点滴を行います。

<点滴の治療スケジュール例(イメージ)>

治療スケジュール

薬の投与量やスケジュールは、からだの状態や副作用などによって変更することがあります。詳しくは担当の医師におたずねください。

点滴を行う日の診療の流れ(イメージ)

<国立国際医療研究センター病院の場合>

こちらに示した診療の流れは参考例です。診療にかかる時間や待ち時間などは、各施設や当日の混雑状況などによって大きく異なりますので、ご了承ください。

点滴を行う日の診療の流れ(イメージ)

点滴を受けているときに注意すること

  • アテゾリズマブやアブラキサンの点滴中や点滴直後に、アレルギーのような症状「点滴時の過敏症反応( infusion インフュージョン reaction リアクション )」を起こすことがあります。点滴終了後1~2時間以内に症状があらわれることもあります。
このような症状が起こった場合はすぐに担当の医師、看護師または薬剤師に知らせてください。
  • 吐き気がする、気分が悪い、冷や汗が出る、さむけがする
  • 息苦しい、のどがしめつけられる感じがする、心臓がドキドキする
  • からだがかゆい、皮膚が赤くなる、ぶつぶつができる
  • なお、乳がん患者さんを対象にしたアブラキサンとアテゾリズマブ併用療法の臨床試験では、点滴時の過敏症反応がみられた人は3%程度でした。その約半数は、治療を始めて1コース目あるいは2コース目に起きたことが報告されています。
  • アブラキサンの点滴中に薬が血管(静脈)の外に漏れてしまうと、注射部位がかたくなったり、腫れて痛みを感じたりすることがあります。点滴中は薬が血管の外に漏れないよう、なるべく腕を動かさず安静にしていてください。万一漏れてしまった場合は、処置や投薬が必要になる場合があります。
このような症状が起こった場合はすぐに担当の医師、看護師または薬剤師に知らせてください。
  • 点滴部位が痛い、熱感がある、違和感がある
  • 周辺部位が赤くなる、腫れる