副作用と対処法【特に注意が必要な副作用】

  • このパートでは、頻度は高くないものの(多くはまれです)命にかかわる症状を引き起こすこともある、注意が必要な副作用を紹介しています。
  • 特に具合が悪いときは我慢せず、すぐに担当の医師や看護師、薬剤師に連絡してください。
  • ご家族や周囲の方にもどのような症状が起こる可能性があるのか伝えておくとよいでしょう。

副作用の数字は乳がん患者さんを対象としたアブラキサンとアテゾリズマブ併用療法の臨床試験の結果をもとに記載しています。数字のなかには、最終的に治療との関連がないと判断されたケースも含まれています。

特に注意が必要な副作用

内分泌障害

からだのバランスを保つホルモンを分泌する器官(甲状腺、下垂体、副腎など)に障害が起こることがあります。

甲状腺機能障害

20%(重い症状:1%未満)

あらわれる頻度

からだの新陳代謝を高めるホルモンを作る甲状腺に障害が起こることがあります。それにより、血液中の甲状腺ホルモン値が上昇したり、低下したりして、下記のような症状があらわれます。

<甲状腺ホルモン値が上昇した場合>
食事の量に関係なく体重が減少したり、脈拍の乱れ、発汗、ふるえなどの症状があらわれます。

<甲状腺ホルモン値が低下した場合>
食事の量に関係なく体重が増加したり、疲れやすくなる、声がかすれる、顔や脚がむくむ、さむがりになる、といった症状があらわれます。また、ものごとにおっくうになったり、めんどうに感じることがあります。

臨床試験では、甲状腺機能障害がみられた人の約半数は、治療を始めてから2~6ヵ月後に起きたことが報告されています。

副腎機能障害

1%

あらわれる頻度

副腎由来のホルモンが低下し、さまざまな症状が出ることがあります。具体的には、からだがだるくなる、食欲低下、むかむかする、吐き気、嘔吐、下痢、血圧の低下、発熱などの症状があります。また、無気力になる、不安が強くなるなどの性格の変化や、眠気、爪の先や関節が黒ずむといった症状があらわれることもあります。急性の場合は意識がうすれることがありますので、注意が必要です。

臨床試験では、副腎機能障害がみられた人の約半数は治療を始めてから4~5ヵ月後に起きたことが報告されています。

下垂体機能障害

さまざまなホルモンの働きをコントロールする脳の下垂体に障害が起こり、下垂体ホルモンが低下することがあります。
下垂体ホルモンが低下すると、頭痛、疲れやすい、食欲不振といった症状があらわれます。口の中やのどが渇きやすい、水分摂取量の増加、トイレが近くなるなど、1型糖尿病に似た症状があらわれることもあります。このほか、月経がない、乳汁が出る、ものが見えにくいといった症状があらわれることもあります。

乳がん患者さんを対象とした臨床試験ではみられませんでしたが、肺がんのアテゾリズマブの臨床試験で確認されており、注意が必要なため記載しています。

特に注意が必要な副作用

肝機能障害、肝炎

15%(重い症状:5%)

あらわれる頻度

肝機能障害が進行すると、白眼や皮膚が黄色くなる「 おう だん 」や腹水などの症状があらわれますが、多くの場合、症状が出る前に検査値の異常によって見つかります。

臨床試験では、肝機能障害がみられた人の約半数は、治療を始めてから2週間~3ヵ月後に起きたことが報告されています。

特に注意が必要な副作用

間質性肺疾患

3%

あらわれる頻度

間質性肺疾患肺の間質という部分に炎症が起こり、肺の機能が低下することがあります。痰を伴わないせき(空せき)や、息切れ、息苦しさ、発熱など、かぜに似た症状があらわれます。進行すると呼吸がしにくくなり命にかかわることもあるので、かぜをひいたと自分で判断しないで、担当の医師や看護師、薬剤師に相談してください。
臨床試験では、間質性肺疾患がみられた人の約半数は治療を始めてから2~6ヵ月後に起きたことが報告されています。

特に注意が必要な副作用

重度の皮膚障害

1%

あらわれる頻度

アブラキサンとアテゾリズマブの併用療法では、しばしば皮膚が乾燥してかゆみが生じたり、皮膚の一部に小さな赤い発疹ができることがあります。
しかし、ごくまれに全身に赤い斑点や水ぶくれができる、ひどい口内炎、くちびる・粘膜のただれといった重度の皮膚障害が起こることがあります。また、体がだるい、まぶたや眼の充血、発熱などの症状をともなうこともあります。

臨床試験では、重度の皮膚障害がみられた人の約半数は治療を始めてから10日~3ヵ月後に起きたことが報告されています。

特に注意が必要な副作用

大腸炎、重度の下痢

1%

あらわれる頻度

大腸の粘膜に炎症が起こって出血したり、重度の下痢が起こることがあります。1日の便の回数がふだんより4回以上増えた、血や粘液が混じった便が出る、刺すようなおなかの痛みがある、吐き気や嘔吐をともなう、といった症状があらわれます。

臨床試験では、大腸炎がみられた人の約半数は治療を始めてから5~8ヵ月後、重度の下痢がみられた人の約半数は1~5ヵ月後に起きたことが報告されています。

特に注意が必要な副作用

脳炎、髄膜炎

1%

あらわれる頻度

脳炎や髄膜炎が起こると、頭痛や発熱、吐き気、嘔吐のほか、意識がうすれる、けいれん、うなじがこわばり曲げられなくなる、といった症状があらわれます。

臨床試験では、脳炎、髄膜炎がみられた人の約半数は治療を始めてから1~3ヵ月後に起きたことが報告されています。

特に注意が必要な副作用

腎機能障害

1%

あらわれる頻度

腎臓に炎症が生じ、機能が低下することがあります。症状が進行すると命にかかわることもあるため、注意が必要です。
腎機能障害の症状としては、むくみ、尿量の減少・増加、体重減少・増加のほか、倦怠感、息切れ、わき腹の痛み、発熱、発疹、下痢、吐き気、嘔吐などがあります。初期はこうした症状があらわれないことも多いため、排尿の回数や量、尿の色の変化などに注意してください。

臨床試験では、腎機能障害がみられた人の約半数は治療を始めてから3~5ヵ月後に起きたことが報告されています。

特に注意が必要な副作用

膵炎

1%未満

あらわれる頻度

膵臓に炎症が起こると、腹痛や吐き気、背中の痛み、白眼や皮膚が黄色くなる(黄疸)、発熱などの症状があらわれます。症状が進行すると、命にかかわることもあります。

臨床試験では、膵炎がみられた人の約半数は治療を始めてから1~6ヵ月後に起きたことが報告されています。

特に注意が必要な副作用

1型糖尿病

1%未満

あらわれる頻度

1型糖尿病膵臓からインスリンが分泌されなくなり、慢性的に血糖値が高くなることがあります。特に急激に血糖値が上昇した場合には命にかかわりますので、緊急の対応が必要です。
特徴的な症状としては、口の中やのどが渇きやすい、水分摂取量の増加、尿量がふだんより多くなる、トイレが近くなるといった症状があります。また、疲れやすくなったり、発熱、吐き気、腹痛などの症状があらわれることもあります。

臨床試験では、1型糖尿病は治療を始めてから4ヵ月後に起きたことが報告されています。

特に注意が必要な副作用

黄斑浮腫

アブラキサンの副作用として、まれに視力の低下(目がかすむ)、ものがゆがんで見える、視野の中に見えない部分がある、といった症状があらわれることがあります。放置しておくと重症となり、元に戻りにくくなるので、早めに対処することが大切です。

乳がん患者さんを対象としたアブラキサンとアテゾリズマブ併用療法の臨床試験ではみられませんでしたが、過去にアブラキサンを使用した患者さんで黄斑浮腫が報告されており(頻度:5%未満)、注意が必要なため記載しています。

ワンポイントアドバイス
  • 黄斑浮腫による見え方の異常は、下の「アムスラーチャート」と呼ばれる格子状の線を見ることで、セルフチェックができます。
  • もし下記のような見え方の異常がある場合は、早めに担当の医師、看護師または薬剤師に相談しましょう。

<見え方のイメージ>

見え方のイメージ

<アムスラーチャート>

アムスラーチャート
  • 検査はメガネをつけたままで片目ずつ行います。
  • 片方の目は手でおおいかくします。
  • チェックする側の目は、約30cmはなしてまん中の点を見るようにします。
アムスラーチャート

特に注意が必要な副作用

筋炎、横紋筋融解症

アブラキサンとアテゾリズマブの併用療法では、しばしば筋肉痛があらわれることがありますが、ごくまれに筋炎や横紋筋融解症といった病気が起こることがあります。筋炎や横紋筋融解症になると、発熱や疲労、手足に力が入らない、立ち上がりにくい、といった症状があらわれます。

乳がん患者さんを対象とした臨床試験では、横紋筋融解症はみられませんでしたが、肺がんのアテゾリズマブの臨床試験で確認されており、注意が必要なため記載しています。

特に注意が必要な副作用

重症筋無力症

まれに筋力が低下する「重症筋無力症」という病気が起こることがあります。具体的には、まぶたが垂れ下がる、呼吸が苦しくなる、顔の筋肉が動かしにくくなる、ろれつが回らなくなる、手足や腰、肩などに力が入りにくくなるといった症状があらわれます。さらに、これらの症状が休むことで一時的に回復したり、朝のほうが夕方よりも症状が軽い、といった特徴があります。

乳がん患者さんを対象とした臨床試験ではみられませんでしたが、肺がんのアテゾリズマブの臨床試験で確認されており、注意が必要なため記載しています。

特に注意が必要な副作用

神経障害(ギラン・バレー症候群など)

アブラキサンとアテゾリズマブの併用療法では、しばしば手足のしびれがあらわれますが、ごくまれに神経障害の一種である「ギラン・バレー症候群」が起こることがあります。
ギラン・バレー症候群では、両側の手足の力が入らなくなり、しびれ感が出た後、急速に全身に広がり進行します。物が二重に見えたり、食べ物がのみ込みにくくなるほか、呼吸が苦しくなることもあります。

乳がん患者さんを対象とした臨床試験ではギラン・バレー症候群はみられませんでしたが、肺がんのアテゾリズマブの臨床試験で確認されており、注意が必要なため記載しています。

神経障害(ギラン・バレー症候群など)