開発本部
(米国子会社出向中)

患者さんのかけがえのない日常に貢献できるよう生物統計学の専門家として新薬の開発に取り組んでいきたい。

志村将司(米国子会社 TAIHO ONCOLOGY, INC.出向中)

新薬開発の最終段階を担う重要な仕事

――現在、担当している業務内容を教えてください。

2019年から米国子会社、TAIHO ONCOLOGY, INC.(以下TOI)に出向し、生物統計担当者 (Biostatistician)として新薬の開発に取り組んでいます。

新薬の開発には基礎研究、非臨床試験*、臨床試験(治験)と大きく三つの段階がありますが、私たち生物統計担当者が関わるのは臨床試験の段階からになります。基礎研究で見出され、精査された新薬の候補物質は、非臨床試験へと進み、動物やヒトの細胞を使った実験を通して、その薬の有効性や安全性が検証されます。

それを受けて実施するのが臨床試験(治験)です。実際に人が被験者となり、有効性と安全性を調べるわけですが、この臨床試験の実施計画書を作成し、臨床試験で集積されたデータを解析して試験結果を解釈するといった業務を行うのが生物統計担当者です。

*非臨床試験:薬の候補物の有効性・安全性・毒性を調査するため、試験管内で、また動物に対して実施される試験。

――どんなことに留意し、生物統計担当者としての仕事に従事されていますか?

臨床試験(治験)における試験計画、データ収集および解析など、あらゆる場面でバイアス(データや主観などの偏り)が混入する恐れがあります。このバイアスを可能な限り排除することで初めて統計的な結論を出すことができます。ですから、そこは非常に気を使い、慎重に仕事を進めています。

効果のない薬が世の中に出ることは許されませんし、逆に効果がある薬が世の中に出ないのも不幸です。治験が不適切に実施され、臨床的に意味のある結論が得られないのも倫理上の問題があります。それだけに、「本当に」臨床的に必要な薬であるかどうかを判断することが重要であり、その一端を生物統計担当者が担っています。そのため、社会や会社に対する責任を常に意識しています。

――新薬の開発には10年以上かかると言われています。生物統計担当者は、最終段階の重要な局面も担っているわけですね。

はい。新薬を製造し世に送り出すためには、国の承認審査を経なければなりません。承認審査を受けるためにはまず、厚生労働省によって定められた法令やガイダンスに基づいて臨床試験を行う必要があり、かつ申請に必要なデータを集めなければなりません。そのデータ収集、および解析に関わるのも生物統計担当者です。製薬会社は新薬の申請書類を厚生労働省に提出し、許可が下りて初めて多くの人に安心して使ってもらえる薬となるわけです。

私自身は入社してからの7年間、データサイエンス部に所属していましたが、そこでも同様の業務に携わってきました。

グローバル開発拠点で、より早く患者さん役立つ薬を届けるためのプロジェクトを推進

――これらの業務に加えて、TOIならではの業務というのもあるのでしょうか。

はい、日米同時に承認申請ができるようにするプロジェクトに関わっています。実は、新薬の承認申請時に規制当局から要求される内容が日米で異なるのです。それ故、異なる国の規制当局に申請するためには、データの変換や書類の整備などに時間を要し、国によってタイムラグが生じているのが現状です。この期間を短くできれば、より早くがん患者さんに新薬を届けることにつながります。

このプロジェクトに関わることができるのも、日本とアメリカ両方の承認申請を経験できたからだと思います。そのような機会を会社から与えてもらっていることに感謝しています。日米のコミュニケーションを円滑に進めること、そして、標準化によって今後のグローバル開発を迅速に行える環境の構築なども私が果たすべき役割だと思い、日々努力しているところです。

――大鵬薬品における、TOIの役割をどうとらえていますか?

グローバルな新薬開発の拠点ととらえています。グローバル臨床試験をTOIで実施することが多くなってきているので、大鵬薬品のグローバル化を進めていく上でTOIの果たす役割はますます大きくなっていくはずです。

なお、今の部署は10人ほどのスタッフで構成されています。私以外は現地社員です。人によってバックグラウンド、知識量、仕事に対する考え方も千差万別。意見の伝え方や課題への取り組み方もさまざまです。自分にとっては常識だと思っていたことが、相手には通じないということも多いです。でも、最近はその違いをむしろ楽しんでいます。

――まさにダイバーシティ&インクルージョンを職場で体感されているのですね。その他、TOIへ出向してから新たに経験したことなどありますか?

がんサバイバーの団体との交流に参加するようになりました。がんサバイバーの方たちと一緒にランニングをしたり、ボランティアやチャリティーといった活動もしています。

私自身、日々机に向かってデータを眺めることが多い仕事なので、ともすると患者さんと距離ができてしまいがち。でも、がんサバイバーの方々との交流のおかげで、自分が生命に関わる仕事の一端を担っているのだと実感できています。

余談ですが、プライベートでは学生時代にやっていたバドミントンを再開し、地元のクラブで週に1~2回本格的にトレーニングを受けています。会社以外の友人も増え、コミュニティーが広がりました。妻に試合を撮影してもらい、友人と共有して改善点を話し合うなどして楽しんでいます。

患者さんの「当たり前」を大切にするため、最善を尽くす

――では、大鵬薬品の一員としてコミュニケーション・スローガン「いつもを、いつまでも。」を社会にどう伝えていきたいと思いますか?

とても良いスローガンですよね。患者さんのかけがえのない日常に少しでも貢献できるよう、大鵬薬品の社員として新薬の開発に取り組んでいきたいと考えています。

何より、科学は日進月歩の世界。新薬開発を巡る環境も日々変わっています。生物統計学の専門家として常に新しい技術をキャッチアップすることで、スローガンを実践していきたいです。また、当たり前だと思っていた「いつも」の大切さを患者さんが認識するときに、少しでも大鵬薬品の社員としてお役に立てるよう努力したいと思います。

――志村さん自身にとっての「いつもを、いつまでも。」とは?

COVID-19で日常が変わってしまい、何気ない「いつも」が実は、周りの人たちによって支えられていたことに改めて気付かされました。同時に、惰性で続いてしまっていることも多くあったなという反省も芽生えました。支えるべき「いつも」こそが大切であり、「いつまでも」であってほしいもの。だからこそ、自分、会社、社会にとって大切な「いつも」とは何かを考え、それらを継続できるようにしていきたいですね。